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『スーパーアメフラシ』


「かばん」メンバーの
山下一路さんの第二歌集『スーパーアメフラシ』は、
四十年の“時とうた”をとじこめた一冊。

201820_6
                                  迎春         





つぎつぎと夜のプールの水面を飛びだしてくる椅子や挫折が  

飛ぶことに目を背けたらほろほろ鳥その延長にヒトが位置する   

今までの人生すべてサンプルで本物の恋がシチリアにある  

 

 “短歌定型”は、しばしば、記憶の旅のスーツケース的なものに
 例えられたりする。といっても、
 山下作品では、モノ・人・鳥獣がまっすぐならべられて、
 時々標本的にもなる。

 

 こういううたのラインは、北欧式頭脳によって
 つくられるものだろうか。いえ、今日の憂いをさかのぼって
 つき抜けていくあのシチリアのレモンが、
 アルバムの下からのぞいている。


                         なまり
暗闇に折りたたまれていた鶴をほどくと鉛 三月の空    

人体はパイプオルガンでできていてときどきずれる通奏低音   

このメールアドレスはすでに登録されています。不幸な自分  

 

 耳をすませばすますほど、
 「鉛」「通奏低音」「不幸」ということばの響きは、
 おもたく、不気味。
 それでも、これらのタームはメカニカルに選択されて、
 一首の上でまったく矛盾を纏わないようにみえるのである。




大事なことの少ない今日一日を挟んでいるペーパー・クリップ  

ポツポツとボールペンで点打って「生き方論」としてどうですか  

 
 この「ペーパー・クリップ」はやさしい。「ボールペン」のほうは
 どことなく執拗。
 ところで、私個人的に、2018年には愛する文房具をもっとうたいたい。
 机をはみ出してとことん愛せるものたちに会いたい。



                                そら
欲しいものほしかったものが別れてならぶ薄紅色の空のお店に 


 2017年にみた舞台を、なぜかほんの一瞬唐突に思い出す。
 チェーホフの『ワーニャ伯父さん』(ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出)に
 でてくる娘ソーニャは、絶望のラストに天を仰ぐ。でも、
 このうたの「空【そら】)のお店」はネットショップ的なものかと考えれば、
 ソーニャはたちまち消えて、現代の赤ずきんたちに変わってみえてくる。

 
 「薄紅色」はここまでひんやりと色あせる。
 作者のビジョンのなかで、シンパシーと皮肉は、
 冷たく手をつないでいるのだろう。






とつぜんのスーパーアメフラシ父さんの見る海にボクは棲めない




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コメント

丁寧に読んでいただいてありがとうございます。いろいろな方からいろいろな選歌があって、作者とても喜んでいます。

投稿: 山下一路 | 2018年1月11日 (木) 10時07分

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